子どものケンカに親

 昼下がり、庭で「フギャ~~オ」と猫の雄叫び。さっき出て行ったうちのアポロではと庭に面した掃き出し窓へ急ぐ。我が家の庭にはヨソの猫やアライグマなんかも来ることがあるが……アポロだ、庭を囲う胸の高さのフェンスの上で、おっと向かい合っているのはよっちゃんだ。

 よっちゃんというのはここいらのボス猫で、夫が「なんとなく」名付けた。小栗旬似の飄々としたイケメンである。

 身を固くしているアポロに対し、よっちゃんは涼しげに立ちはだかっている。

 アポロは狩りの名手で俊敏だが、物凄く臆病で、他の猫にはいつもイジメられるのだ。おそらくアポロが過剰に怯えて騒ぐものだから、相手も気分を害し、押さえつけにかかるのだろう。先々代のボス猫からは一撃を食らって傷を負い、左アゴが腫れあがったことがある。よっちゃんは比較的大らかなボスだが、追い詰められたアポロが下手に動けばどうなることか。

「おい、こら」と叫んでみたが何も動かず、そこに履き物はなく、玄関に取りに行く猶予もなく……ええいっ、裸足で下り、小石を拾ってよっちゃんの手前を狙った。が、当てる気がないのは伝わるのだろう、よっちゃんはこちらを見ようともしない。ただ、”あ~あ親が出てきた、アホくさ”とでも思ったか、ゆっくりと踵を返し、去って行った。

 あとには固まったままのアポロと、裸足で踏ん張るアラフィオバサンが。

 とりあえず上り口で足の砂を払って、振り返ると、アポロの姿もなかった。

 助けたかったのだけど、これって”子どものケンカに親が出て”になるのかな、私が余計なことをしてアポロに恥をかかせたのかな……そんなことが思われてきた。

 私はきっと、もし子どもがいてイジメられてると分かったら、相手や学校へ怒鳴り込んでいくタイプかもね、そんな事をしたら後で余計にイジメられるかもしれないのに。

 常々思っている事だが、世の親御さんはどれ程の心労と深き思慮で我が子を守り育てているのだろうか。私には無理だったなとつくづく思う。自分に子どもがいないことに胸を撫で下ろす。そして、そんな私も何十分の一かぐらいはこうして味わわせて貰う訳で。

 いつも、大事なことを教えてくれる小さきいのちに、ありがとう。